【コラム】社員の離職
宮城県のある経営者さんが、沈痛な面持ちで東京事務所に訪問してくれました。
突然の面談要請に面食らいましたが、今回の社員の離職は、彼にとってはよほどの出来事でした。
これまでも同じことがあったはずなのに……
50人規模の中堅クラスの建築会社です。
コロナ禍の影響、引きこもり需要で活況な中、社員が辞めていくのはシンドイことです。
そして、同じような出来事は続くものです。
緊急事態宣言が明けて名古屋へ出張した時、ある地域でNo.1のリフォーム会社の経営者さんから、
同じような悩みを打ち明けられました。
「新卒採用を始めて10年。第一期生は全員離職しちゃいました。
中途採用にもチャレンジしているけれど、彼らも長続きしないね……」。
創造を超えて!
社員の離職。それは経営者、そして、離職者の上司にとって、心へのダメージとなる大きなものです。
だけれど会社、経営者、上司の力だけでは避けられない離職があります。
例えば以下のような理由の離職です。
- 給与が安いので辞めます
- この条件でなければ辞めます
- あの人と働くのであれば辞めます
このような離職者のテーマを理解するには、彼らの無自覚な「問題」の理解が必要です。
そして、気の毒なのは、「彼らの問題」に翻弄された経営者、上司という図式です。
彼らは「脅し」を使って、経営者の良心にチャレンジしてきます。
例えば、「一人ひとりの社員の『強み』に沿って自己実現させたい」
「この会社に入ってよかったと言われるように育成したい」という良心を持っている
経営者の「人柄」に、自分勝手な離職者は「脅し」というおびやかしを使います。
自分勝手な離職者は頭が切れます。
経営者は脅されたとしても、彼らを辞めさせるという決断に自責が起きるように仕組んでいるのです。
その結果、彼らを継続雇用させるということになり続けるのです。
さて、経営者が主体として自分勝手な彼らを辞めさせるということは、
経営者自身の根底が脅かされることであり、常に、その葛藤に苦しみ続けてきたはずです。
一方で、彼らが自ら辞めるという申し入れは、経営者たちを脅かすことにはなりません。
そんな時、経営者は不思議なくらい安堵するものです。
彼らが会社を辞めるのは、経営者の責任ではないということです。
すべての人間とは上手くやれない!
社員が離職する。たとえそれが、自分たちの力で防げないことだったとしても、
経営者にとって大きな傷を背負うことになるのです。
人が辞めるということは、雇用者にとっては自分でも自覚できないほどの喪失体験を伴います。
喪失につながることですから、経営者たちの心の傷はより激しいものとなります。
こんな時、「別れは実に大変なことなんだ。人一倍苦しいことなんだ」と自覚されているものです。
もし、経験がある経営者であれば、そう感じることと存じます。いかがでしょうか?
それでは、具体的にどんな訓練をすれば、その傷を癒すことができるのか?
それは、「自分勝手な彼らを幸せにするのは、自分の役割ではなく他の方に譲る」という
別れのトレーニングをすることです。
具体的な方法としては、
彼らに対する思い、感情、気持ち、考え、期待していたことをすべて手紙に書くことです。
そして、最後に「すべては私の一方的な期待であった。だからすべてを手放そう。もっと、もっと、
幸せになってください。これまでたくさんの気づきと学びをありがとう!」と締めくくることです。
このようなトレーニングをすることで、
自分勝手な離職者への『怒り』『罪悪感』『自責の念』が昇華されていきます。
『孤独よ、さようなら。
自分に責なきこと、悲しむ必要はない、自立した挑戦を始めた人たちである』。
これが正しい理解ではないでしょうか?
私たち経営者は万能ではありません。
ですから、ご自身を許すこと、セルフコンパッションを学びましょう。
著者:椎名 規夫(しいな のりお) 住宅・リフォーム販促情報局 代表 株式会社エムディー 代表取締役社長 経歴:社団法人取手青年会議所 1999年理事長講演実績:日本郵便(株)、三井住友海上保険会社、中部電力、日本M&Aセンター、(株)船井総合研究所、(株)三洋堂書店、日本創造研究所、(独)教職員支援機構、中央労働災害防止協会:大阪安全衛生教育センター、(財)日本品質保証機構、(福)名古屋市社会福祉協議会、東京都教育委員会指定道徳授業地区公開講座、川口市労使講座、長野商工会青年部、静岡県清水建設業協会青年部、千葉県宅地建物取引業協会松戸支部研修、(社)常総青年会議所コミュニケーション研修など、多数。 ・全国6万社が加盟する中央労働災害防止協会でコミュニケーション研修担当 ・独立行政法人教職員支援機構で全国の小・中、高等学校の教員向けコーチング研修担当 ・労働基準監督官(国家公務員)合同研修でメンタルトレーニング・コミュニケーション技術担当 |